ギャルリ・オーブ企画展示 京都芸術大学教員展
2021年度ギャルリ・オーブ企画展示
京都芸術大学教員展
For the next decade —少し未来の芸術の未来—
会期: 2021年5月10日(月)〜20日(木) 会期中無休
10時30分〜18時30分(最終日17時まで)
会場: 京都芸術大学ギャルリ・オーブ 展示室1〜4
- 開催趣旨
2021年からの10年間で、わたしたちは地球規模の未曾有の危機に立ち向かいながら、「コロナ以降」とも呼べる新しい日常に向かうことになるでしょう。同時に、これから10年間をかけて、京都芸術大学は開学40周年への歩みを進めていくことになります。
ギャルリ・オーブ運営委員会が企画した本展覧会では「これからの10年を考える」という共通の動機によって、4つのテーマが共振します。これらは、一見すると関連がないようにも思われますが、異なる分野の結びつきが新たな価値を育むことや、今すぐに回答を得られなくても、10年をかけて答えを探すことの大切さを示す意義深いテーマです。
時代が進み、大学も、ここに勤める教職員も経年変化を重ねる一方で、毎年、更新され続ける「学生」はいつも若い魂を躍らせ、意気揚揚と自分の未来を語り、芸術と共生する情熱を絶えず謳いあげます。本展覧会では、そのような学生とこれから先の10年を伴走する教員4名が展示ディレクターとなり、それぞれ設定したテーマに沿って近年着任の専任教員をフィーチャーし、ディレクター自身もアーティストとして加わって展示空間をつくりあげました。展示をご覧になる学生のみなさんには、これからも脈々と続く新しい芸術の胎動をギャルリ・オーブで感じてほしいと願っています。(佐藤博一:ギャルリ・オーブ運営委員会委員長/大学院芸術研究科)
- 展示内容
テーマ1「文・芸・感・染」
江南亜美子(文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース)
企画: 髙橋耕平(美術工芸学科 写真・映像コース)
移動や他者との接触がままならない現在に於いて、小説を読むことはそれを解放する。世界のあらゆる場所への移動が可能で、あらゆる時代・季節に身を置くことができ、初め会う文化や人と接触することもできる。この制限された生活の中で「此処ではない何処か」へ旅をしたい気持ちを抑えることが出来ないならば、未だ見ぬ風景、未だ見ぬ誰かと対話したいならば、ページを開き、言葉の世界に身を委ねることができる。
この会場に用意されるのは文芸批評を専門とする書評家・江南亜美子により選書された30の書籍と、江南本人の書評である。アートやデザインが未来を予見してきたように、文芸も様々な未来を描いて来た。見通しの悪い現在地から10年先を見ることは容易ではないが、この選書と書評は今立つ足元を照らし、先に目をやる勇気を与えてくれる。同時に我々が知らず内に見過ごしてきた風景をも遡って照らしだす。感染を遠ざける時代において、文・芸による積極的な感・染は、急激に変化し続ける世界への免疫力を獲得する方法なのである。(髙橋耕平)
テーマ2「フォルム」
岡田将充(情報デザイン学科 イラストレーションコース)
企画: 見増勇介(情報デザイン学科 ビジュアルコミュニケーションデザインコース)
グラフィックデザイナーとして活動する岡田は、クライアントワークの外側で、3DCGを用いた視覚表現をおこなっている。それらはAdobe Dimensionというモデリングソフトによって具体化される。当ソフトは本来、パッケージや商品モックアップなどのシミュレートを目的としており、通常的には表現行為として利用しない。
この手法を用いた岡田の「フォルム」シリーズという一連の作品群は、Adobe Dimension内の素材集を購入して展開される。これに関して岡田は、「完全なオリジナルの(存在しない)モチーフを生み出すのではなく、だれでも手に入れることのできる素材を用いることで、既製素材が内包する『わかりやすい』機能から逃れ、別の視覚的な価値を発見したい。」と語る。
教育現場でのDTPによるグラフィック・プロセスは、主にIllustrator、Photoshopなどを用いることが通常だが、その状況は四半世紀以上変わっていない。岡田のこのツールと表現の関係性は、停滞するデザイン・プロセスを再検証するひとつの参照となりうる。(見増勇介)
テーマ3「循環する時間・水」
白石晃一(情報デザイン学科 クロステックデザインコース)
企画: 八木良太(空間演出デザイン学科 空間デザインコース)
会場内に設置された大量の500mlペットボトルは、国府理の作品「水中エンジン」に用いられた水のメタファーである。白石は、水中エンジンの再制作プロジェクトにおいて、この水(災害時の備蓄水)を配布し、10年後に回収し、そして再度水中エンジンの再制作を予定している。(配られた備蓄水は災害時に使用してもよい。)今からちょうど10年前、東日本大震災によって暴走した核燃料を冷却する水から着想を得た水中エンジン。10年後に再び集められる、水の総量はどうなっているのだろう? これは、災害のない10年に向けての祈りのような約束であるとともに、災害時には使われることで誰かを救う、循環する生命の水である。
今回の展示は、現在とそして前後10年の20年という直線的時間の尻尾と頭を繋ぐ試みの数々である。(八木良太)
テーマ4「認知し観察し創造し」
齋藤亜矢(文明哲学研究所)
鈴木卓爾(映画学科 映画製作コース)
中村紀章(環境デザイン学科 建築・インテリア・環境デザインコース)
企画:山城大督(アートプロデュース学科 アートプロデュースコース)
芸術認知科学を専門とする齋藤亜矢、映画監督・俳優・脚本家の鈴木卓爾、気鋭の建築家 中村紀章。この展示では、それぞれの専門領域をもつ三名のレクチャーを、企画者の山城が開発した撮影技法《VIDEO LECTURES》で記録し上映展示する。《VIDEO LECTURES》は、レクチャラーの全身フルショットを撮影した映像と、解説スライドのデータを同期させて展示上映することで、記録として「上映」される映像メディアを、空間化し「再生」させる試みである。
齋藤は、「進化の視点からみたアートのツボ」と題し、チンパンジーや子どもの表現活動を紹介しながら、人間はなぜイメージし絵を描くのか、「芸術するこころ」を問う。鈴木は、映画における演技の原理、そして映画におけるフレームや編集について、映画学科で制作した監督作品『嵐電』(2019)を例に講義し、「映画とは何か」を提示する。中村は、まちなかに溢れ、名も無き人々が創意工夫し建てたファサードや庇に注目する。それらのリサーチを豊富な記録写真とコメントともに紹介し、近年の中村建築の源泉にせまる。
主催: 京都芸術大学ギャルリ・オーブ運営委員会